2011年8月7日日曜日

彼ら共通のセンス

昨日の夜はお休みの人も出たので2人で静かなアトリエだった。
久しぶりにしんじ君が絶好調。4枚も描いてみんな傑作だった。
10年も付き合っているけど、調子の良い時の彼を見ていると本当に凄いと驚かされる。
彼の場合、調子の悪い時でも作品にはそれほど影響は出ない珍しいタイプではあるけど、やっぱりいい時の勢いは違う。
ダウン症の人たちの場合、ほとんど作品と自分は一体なのでその時の状態が全部絵にあらわれる。本人が病んでしまっている場合や、気持ちが落ち込んでいる時にはなかなかいいものは描けない。逆に言えば健康で楽しい時にいい作品が生まれる。正直な世界だと思う。
ただ、まれにどんなに調子が悪くても作品には影響がない人がいる。
心の中で何者にも影響を受けない領域を持っていて、絵を描く瞬間にそこへ戻っていけるのだと思う。
彼らはみんな共通して豊かな感性を持っているけど、やはりその純度の高い人はいる。
東京のアトリエでいえば、てる君しんじ君、ゆうすけ君は絶えず作品の密度は高いし、時間をかけていい感覚を出し続けるみりちゃんや、良い時は飛び抜けてレベルが上がるりょうすけ君やさとみちゃんのような作家もいる。
やっぱり全員いいけど、スタイルはそれぞれ。一人一人のリズムを尊重すべきだ。
いいところが出て来るタイミングもみんな違うから。
特に制作のような心の深いところに向かっていく作業に口出しや手出しは慎まなければならない。
最近、話題になっている書道の作家に関して、時々聞かれるのではっきり書くけど、見ていてかわいそう。周りの要求に応えるのに必死になっていて。
あれを見て拍手喝采している人達も、本人の幸せを願うのか、ただサクセスストーリーに酔いたいだけなのか見直すべきだ。本人の心は置き去りにされていると思う。
この他にもマスコミ関連で物語をでっちあげられて、無理な要求に応えさせられている人は多い。もっとも良くないのは競争させることだろう。
これは批判するために言っているのではなくて、彼らのためにあえて言わせて頂いている。真に受けてまねする人が出て来てはなおさら被害は大きくなる。
アトリエ・エレマン・プレザンの活動も知られていくことによって、まねしようとする人達も増えてきた。
この様な場はたくさん必要だし、増えてくれること自体は喜ばしいことだけど、やるのならしっかり考えて作家たちの性質を見極め、関わる人間としての自身の能力も磨いて欲しい。私たちには責任がある。
自分がこの環境を創っていくだけの資質を持っているのか見直し、足りないものは補っていかなければならない。
スタッフの役割や仕事に就いてはまた近いうちに書く。
今回は、もしかしてアトリエのことを余り知らずにこのブログを読んで下さっている方もいるかもしれないし、初心に返ってダウン症の人たちが共通して持っているセンスについて書いてみたい。
まず、本当に彼らは共通した何かを持っているのか。
例えば、作品を展示しているとぱっと入って来た人がみんな同じ人が描いたものですねと聞いて来ることがよくある。このように視覚的にも彼らに共通な感覚は確認出来る。
10名の作家の作品を並べてもそれぞれが争うこと無く調和する。
描くプロセスにも共通するものがある。不思議なことだ。
なにより、彼らはみな造形的センスを示す。
僕自身、ダウン症の人達で制作に関わっただけの人で100名以上の人は見て来たが、絵を描けない人はいなかった。
出会ったほとんどの人はそれまで別にどこかで絵を習ったことも無ければ描く習慣もなかった人達でだ。
彼らは言語以上に感性や造形を通じて生き、会話する。
共通すると言うとよく、では個人の個性はないのかと聞かれるが、確かにはっきりとした個性はある。一人一人が、これは誰のスタイルとはっきり分かるものを持っている。
しかし、個性がありつつそこには共通するものも多い。
絵に闇が無いこと、明るく穏やかなこと、バランス感覚の良さ、感覚の鋭さ。
彼らは特に調和的な感性において共通する。
環境に調和し、素材や物、人の心、場の雰囲気を読み調和していく。
その結果が作品にあらわれる。
更には10歳以下の子に共通した作風がある。健常児とはまた違う世界だ。
彼らは作品においてはだいたい20歳頃から自分のスタイルが確立される。
このような感性はおそらく彼らが生まれ持っているもので、活かす環境があるかないかで能力を発揮するかどうかが決まる。
彼らが本来的に持っている能力を私たちはどのように捉えるべきだろうか。
その一つの問いかけが、作品を通しておこなわれている。
僕は彼らの示す感性の世界は人間の持つ可能性そのものだと思う。
本来は人間みんなが持っていた世界で、その力を我々は失って来たのではないかと思う。
その意味で彼らは私たちに可能性を示しているし、それを受け取り、彼らにとって生きやすい環境を創ることが、私たちにとっても人間に本来備わっている本能を蘇らせることになるのだと思う。

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書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。