2011年11月29日火曜日

超えていくこと

悠太は毎日すくすく育っている。凄い食欲。
毎日変化する姿は、本当にかわいく楽しい。
寝る時間や休む時間が無くなったが、悠太の顔を見ていると、一瞬で疲れが抜ける。
今が一番、子供と一体の時期だ。
ただただカワイイだけの時期。それだけでいい時期。
今見ている悠太の顔は一生忘れないだろう。
成長と共にこの一体感は消えていく。消えなくてはならない。
環境も人も、関係も変化していく。
変化していく事で、新しいものが生まれ、新しい世界が見えて来る。

関係が変わって行く事は、成長し変化し新しくなっていくこと。
日々、超えていくこと。それは一生つづく。

プレのクラスを見ていても、ハルコやあきやてるくんとの関係は、
エコールの頃とは確実に違う。
みんなは精神的には、僕を必要としなくなっている。
そこから僕との関係も新しいものになっていく。
それが面白い。

以前、自立について書いてが、そういう部分を見ていると、
精神的な意味では彼らは、結構自立している。
20代の学生達より、精神的自立はすすんでいる様に見える。

前にすすむ。とどまってはならない。
成長を抑え合って、甘え合っていてはならない。
今、少しづつ自分の過去を振り返っているが、
すでに終わったものは超えて行かなければならない。
今の僕はもうそこにいないし、もうそこを見てはいない。

服だって小さくなったら、脱ぎ捨てるしか無い。
無理やり着ていてはいけない。

今の環境や関係が衣服の様に、自分の伸びていくサイズと合わなくなることはある。
とどまってはいられないのだ。

でも、超えていった先で、かつて一体であった頃のあたたかい記憶が、
自分を救ってくれる。その思い出を宝物の様に持って、超え続けていけばいい。

今年を最後に2名の生徒がアトリエを離れることになった。
数年間、制作を見守って来たので、本当に残念でさみしい。
2人とも先日のうおがし銘茶での展覧会に出品していた。
たくさんの人の目に触れて、好評を得ていた。
かなちゃんは強い筆圧で、立体感のあるシンプルできれいな作品を描いて来た。
作業所に通いだしてからは、作品に勢いが無くなって来ていて、
疲れて来ているなあと心配していた。
ゆうすけくんはもう1人いるが、こちらのゆうすけくんは、
展覧会で「ためいき」という大人っぽい作品を出品して、見る人を感心させた。
色彩感覚が鋭く、線の使い方がすばらしかった。
2人とも、きれいな作品を描き続けてくれた。
アトリエで活き活きと、みんなと楽しんでくれた。
アトリエを離れても、こういう時間を大切に、
作品に現れていたこころが守られていく事を願っている。

制作の場の質を保つため、少人数で一クラスを創っている。
そのために、2名抜けると運営は大変だが、また新しいメンバーに出会えるだろう。
また、生徒数が入り過ぎてお断りしなければいけないこともあり、
このバランスは難しい。

余談だが、先日アトリエで保護者の方の1人が、
「作品がいいからすべて成り立つんですよね」と言うようなことを仰った。
確かに彼らの作品は素晴らしいし、
作品を生み出す彼らのこころの純度が、すべてを成立させている。
その事は事実だ。
でも、この言葉は間違っていると思う。
作品はすばらしいが、それはほうっておいて勝手に出て来るものではない。
紙と絵の具があれば良い作品が描ける訳でもない。
環境を保つことの重要性を忘れては、
いかに素晴らしいものも簡単に崩れてしまう。
その意識は、みんなで共有していたい。
もう一つ、伝え方や場所をしっかり選ばなければ、
ただ流れに任せていると、いつの間にか価値のないものに見えてしまうだろう。

そう言えば、しばらく前のことだが、こんな事があった。
アトリエの裏に養護学校か何かのスクールバスがある。
そのバスの前で自閉症の女の子がずっと、何か叫び続けていて、
大人がいっぱい立ち尽くしている。小学校も近くにあって、
小学校の警備員みたいな人達まで、道が危ないとでも言う様に、
話し合い、見守っている。またしても誰も何もしない。
女の子はうろうろ歩き回って叫び続ける。
僕は犬の散歩をしながら近付く。
女の子の顔を見ると、ああやっぱりという感じ。
何かタイミングを逃したみたいだ。
その間にみんなが怖がるから、ますます出口を失ったのだ。
僕は話しかけ易い様に、自分を無防備にして無意識で近付く。
彼女は急にニッコリ笑って「おっおはよーございまーす」という。
「ああ、おはよう」と僕が答える。
彼女はそのままバスに乗って行く。それでおしまい。
ただ、挨拶がしたかっただけなのだ。
こんなことが分からない人があまりに多いから、
生きづらい環境を強いられている人達がいる。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。