2012年5月7日月曜日

緑の響き

5月20日(日)に、日本ダウン症協会東京世田谷支部ふたばの会の総会で、
佐久間が講演をおこないます。
これは一般の方もお越し頂けるのかな?
テーマは「彼らが教えてくれたこと」です。
いつも話したり書いたりしていることよりもうちょっと、
体験の角度から話してみたいなあ、と今は思っていますが、
どんな内容になるのかは当日まで分かりません。

さて、先日、三重県のアトリエに行って来た。
今回はこれからに向けて、もう一度、三重の環境を見ておきたい、
という目的もあった。

これから、いよいよ一番重要な活動を展開していきたいと思う。
一緒に考えたり、創ることに協力してくれる方にも、
今後は参加してもらう様に呼びかけることになるだろう。

ダウンズタウンをどこから始めるかだが、
伝える、仲間、同志を増やす、社会に浸透させていく、
という部分は現在の東京アトリエの活動で良いと思う。
もう一つの安心出来る、安定した「場」が必要だ。
それにはどんな環境がふさわしいのか。

まず、三重にはアトリエとギャラリーが既に整っている。
これからダウン症の人たちの文化発信地として、さらに整備していけばいい。
ここの場所は佐藤家の家を提供している形なので、
今後はもっとパブリックな方法を考えていく。

これから必要なのは、ゲストハウスもそうだが、
まず一番最初は作家たちが暮らせる「家」だ。

この一年は特に、これからの10年、20年を見据えて、
考えて、考えて来た。
何が最善なのか。どうすれば大切なものを守っていけるのか。
このままで良い訳がないと感じ続けている。

私達、気がついた人間、一人一人が行動をおこさなければ、
黙っていては何も変わらない。
国も政治も助けてはくれない。頼りには出来ない。
これからを生きる人達のことを、本気で考えていかなければならない。

私達に何が出来るのだろうか。

制作現場を見て来た人間として、
僕は人間のこころの平和と、異なった存在同士の共生とつながり、
調和というものが最も大切な、育んでいくべき要素だと考える。
そのことの楽しさも、難しさも、たくさん経験して来た。
一生をかけて挑むべきテーマだと思う。
これまでは、その場所が物理的にどんな影響下にあっても、
こころの調和を見つけ、育てていくことが出来ていた。
でも、3•11以後の世界では物理的条件を無視は出来なくなった。
こころという最も大切で、最も繊細なものを扱うということは、
細部にまで注意力が必要になってくる。

どんな環境が良いだろうか。
人が安心出来る。自分を取り戻せる環境。
作家たちの敏感なこころを守るためだけではなく、
こんな時代にどんな人でも望んでいる、ホッとして、
人間性や自然やつながりへの信頼を取り戻せる環境。
僕は「森」のような場所が良いと思う。
前にも書いたが、ただ場所が良くてもダメで、
場には人の思いが宿るのだから、良い場を創ろうという思いを、
たくさん集める。
なぜ、森かというと、森は多様性にあふれているからだ。
目的や一つのことのために、脇目をふらない、
同じ能力の、同じ種類の人間だけで集まる、
そんな種類分けで現代の社会は出来ている。
だから、繋がりを失って、人は病む。争いもおきる。

そんな環境で育てば、人やものを排除して、目的を達成すれば良い、
という人間になっていくのは当然だ。

海にも森にも沢山の生き物がいる。
空や風。土。
沢山の音や色や形がある。全部がそこにあるから良い。
私達の経験出来ないもの、見えないもの、聞こえない音がある、
という事が大切だ。
分からないものが目の前にあるから、謙虚さや畏怖する気持ちが育つ。
このような感覚がつながりを実感させる。
その実感がないと人は孤独感を抱え続ける。

もう一つ大切なのは、サイズ感だ。
私達の社会は大きくや多くということばかり目指して来た。
これは「数」の考えだ。
大きく多くしていくと、気持ちが通い合わなくなる。
気持ちやこころというものは数の対極にある。

これからはむしろ、小さくて、気持ちのこもったものを、
大切にしていく時だと思う。

小さくて充実して、いいなあ、あたたかいなあと感じられるもの。
そんな環境があれば、じゃあもう一つ小さな場を創ろうとなる。
小さな場が沢山できて、浸透していけばいい。

ダウンズタウンの生活部分、第一号もまずは最小単位でと考えている。
良いものが出来て、これがモデルとなっていく。

生活の部分は長い目で見て、安定したものでなければならないので、
現行のグループホームの制度で整えていけたらと考えている。
どこまで可能か、これから実践していきたい。

さて、長くなってしまうので今日はここまでに。
次回は東京アトリエの様に人の集まる場を考える。
沢山のコミニティを見て来たが、人が来なくなってしまった場は、
やっぱり問題を感じるところが多かった。
いる人だけが幸せとか、あるいは隔離されている印象があったりとか、
やっぱり交わることが大切で、
そのためには絶えず、どんな人にとっても居心地の良い場を、
創っていくべきだ。

僕は見た。
新緑の緑に囲まれて、三重のアトリエが遥かな昔と、
遥かな未来が一つになっていつまでもそこにある形を。
自然とこころの奥で、
人々が響き合い、集まって、希望を生み出すであろう情景を。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。