2012年5月12日土曜日

そこにしかないもの

もう数日でよし子と悠太が帰ってくる。
もうすぐハイハイしそうな気配。楽しみ。
悠太といると本当に時間がすぐに経ってしまう。
仕事もしなければ。

前回まで、三重での新しい環境づくりについて書いて来た。
誤解のないように書くが、東京のアトリエはよっぽどのことがない限り継続する。
むしろ、連携をとって、より充実したものになって行くだろう。
前回も書いたが、グループホーム、作業所、法人を持った支援団体、
製品を販売して行く会社、各アトリエ(制作の場はこれまで通りプライベートがいいだろう。理由は知りたい人がいたらご説明します)、それぞれに責任者が必要だ。
これからは人材も多く必要になってくる。

東京アトリエの活動は今、必要とされていることを実感している。

ただ、保護者の方達や関わる方達も、
もしものことだけは考えた方が良いと思う。
もし、東京が駄目になったら、どうやって生きていくか、守って行くか。
東京が駄目になる、その可能性は充分にある。
現在、予想されている大地震の一つでも来たらどうなるか。
経済の崩壊もあるだろう。
富士山の噴火というのだって、可能性がある。
でも、最も恐ろしいのはやはり放射能だろう。
この問題は全く解決していないにもかかわらず、無かったことにされたままだ。
こころある人達はどうか、安全について真剣に考えていただきたい。
自分のためではない。家族や次の世代を考える時だ。

いざという時の為にも、次を考えた環境づくりに取り組まなければならない。

アトリエではダウン症の人達の感性を、調和的と考えて来た。
このことが意味することは何か。
彼らの作品やその世界は、人と人を繋ぐ力がある。
その世界を見た人達は関わらずにはいられない。
前回も書いたが、だからこそここには人が集まってくる。
イベントのお誘いを受ける。作品を展示する。
それぞれの環境が、彼らの作品の力で、より良くなり、
人のこころが動く。感じた人が次のプロジェクトを考える。
そうやって今まで様々な事に挑んできた。
どの活動を通しても、彼ら作品はその環境と調和した。

私達はただ、彼らの内側の声に耳を傾けて、聴き取ろうとするだけだ。

作品の中に何かを見出した人達が集まる。
そして、何かをする。その輪が広がって行く。
そうやって少しづつだけど、環境が良くなって行く。
これがこれまで実際におきていることだ。

誰かが何かをしてくれるのを待っていても駄目だ。
積極的に自分達で環境を変えて行く。

10代の頃、僕の周りにはヒッピーのような人達がたくさんいた。
その人達は、
インドやタイを行き来していたり、スペインで物売りをしていたりしていた。
彼らと良く話した。彼らの甘さを好きになれなかった。
でも、僕だって日本を放浪していたのかもしれない。
みんな、何かを求めて彷徨っていた。
彼らは結局、求めていたものに辿り着けたのだろうか。
求めている場所はあったのだろうか。

真剣に仕事に取り組みだしてからは、放浪は出来なくなった。
それで、良く旅行に行くようになった。
日本の自然は奥深く素晴らしかった。
美しいものはたくさんある。
でも、行った場所でガッカリさせられることの方が多かった。
これはみんなそうだと思う。
なぜ、こんなにいい場所にこんなお店があるの?とか、
そこにある必然性がないものがあふれている。
そのうち、どこへ行っても同じという国になってしまった。
地域の人達というのは、自分達の土地の良さを理解していないケースが多い。
人は何を求めてそこまでやってくるのか。
みんな自分達の生きている場所に無いものを求めてくる。
そこにしか無いもの。そこにしかない安らぎ。
これからの観光も変わって行くだろう。
それには、そこにある良さを自分達が自覚する必要がある。

何故、観光のことを書いたか。
人が集まる場を考えたいからだ。

僕は時々、福祉の世界や学会や何かの業界のようなものに、
批判的なことを書くが、それはこの観光と同じだ。
どのように伝えるか。何を伝えるかというところの視点がズレているから、
知らない人が興味を示さない。
どんな世界でも、人が興味を示さないと言うことは、何か問題がある。

伝えること、見せることには、絶えずどのようにという意識が必要。
どのように、どこを伝え見せるのかを知るには、
そこにある自分達の良さを客観視出来なければならない。
ものを売る商売も同じだろう。

ダウンズタウンはそういった良さを発信出来る場でありたい。
これまでの活動がたくさんの人達に響いて来たのも、
作家たちに魅力があるからだし、アトリエの場に良いものがあるからだ。
そして、見に来てくれた人や、触れてくれた人に、
そこにしかないものを体験してもらって来た。
そこにしかない、かけがえの無いもの。
どこにでもあるものを、もっと増やして行ってなんの意味があるのか。

私達はそこにしかない場所を創ろうとしている。
そこにしかないもの、一言でいえば、世界で一番平和な場所ができたら、
どんなに素晴らしいことだろう。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。