2012年7月2日月曜日

次の段階

梅雨時期のアトリエ。
昨日は雨がしとしと降る中で、相変らず元気いっぱいなクラスだった。
午後クラスの後半、最後にてる君とすぐる君の男子2人になってから、
向かい合って静かに描く姿が良かった。
これぞ、制作の時間という感じ。梅雨の雨も静けさに一役かって、
とてもすてきな光景。

やっぱりさすが、てる君と思ったのは、後半疲れて来てから、
「僕はいつもいっぱい描いてるから今日はもう終わりにする」という。
時間の連続の中で制作が染み込んでいるな、と思う。
これまで描いて来た時間と、今の時間がしっかり重なっている。
でも、「やっぱり描きたい」と言ってもう一度はじめる。
紙の上の方から、四角や様々な形を重ねていく。
半分まできたところで「おてて疲れた。」と言って真っすぐな線をひきはじめる。
それも綺麗なのだけど、上の形ほどの純度はない。
疲れたから、今日は下の方は線でうめていくのかなと思うと、
二本線をひいたところで、筆を止めてお茶をのみだした。
しばらく休んでから、ちらっと画面を見直して、もう一度描き出す。
上の方の様々な形もその下の二本の線も活かして、
初めからこういう作品に仕上げるつもりだったのでは、
と思えるような完成された作品を描きあげる。
彼には本当に見えているし、分かっているのだなとあらためて思う。

アトリエが終わった後、ゆりあと2人で絵具の箱を入れ替える。
筆もこびりついた油をカッターで削った。
全部終わったのは夜だった。

つくづく良い仕事がしたい、と思う。

このブログではこれまで「肯定」を語ってきたと思う。
時には矛盾や葛藤や批判も書いた。
でも、前提としては「肯定」の考えを書くようにしてきた。
その事に今後も変わりはない。
でも、今日は「肯定」を語らないで書こう。
絶えず正直でありたいからだ。

僕は自分の仕事に満足したことはない。
いつでも自分のマイナスがはっきりと見える。
だから、努力を重ねる。

これまで、そんなことはなかったが、最近は自分を持て余す事がある。
こんなものじゃないはずだ。もっと先へ行けるはず、という思いがある。
このレベルで留まってはいけないと感じる。
そういう意識のスピードが早くなっている。
自分が自分についていけない。

ここまでやってきて、出会いたいと思っていたことに出会えた。
知りたいと思っていたことを知ることが出来た。
見たいと思っていたことも見えた。
更に先も必要な手順を踏んでいけば、ここまでいけるという地点が見える。

見えれば見えるほど、分かれば分かるほど、
それでいいのだろうか、と思ってしまう。

見え過ぎたり、分かり過ぎたりして、いきづまることもある。

伝えるべきこと、知ってほしいことは、
現在僕が伝えていることのもっと先にあるような気がする。
そこまで行かなければと思う。

自分に対してお前はまだそこに居るのか、
そんな次元で留まっているのか、と感じたり。

まあ、こうして次の段階が見えてくるのかも知れない。
これまでの段階は終わっていいのだと思う。
10年後にもっと違う深さを知っていたいと思う。

変えてはいけないところはベストを尽くすということだけだろう。

手探りで次の段階を探していく。
制作の場での自分自身も日に日に変わって行く。
やっぱり面白いなあ、という結論ではある。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。