2012年10月14日日曜日

悠太のように

またしても鼻炎で鼻がムズムズする。

あんまり子育日記のようにすべきじゃないということと、
家族の報告みたいにならないように、しばらく悠太のことを書かないでいた。
でも、その間にも彼は毎日成長し変化している。
それ以上に親として自分が変わって行く部分の方が大きい。

ずっとずっと、「場」から学び、自分を変えて来た。
今は本当に悠太を通して学ぶことが多い。

こんなに可愛いものかと驚く。

今朝、アトリエに来る前に悠太が早起きしていたので、
布団の方へ行って、悠太の顔に近付くとニッコリ笑って、
両手を大きく開いて僕の顔を包み込んだ。
2人でごろごろ寝ていると、悠太が僕の顔を舐めたり撫でたりしてくる。
休みの日だと本当にすぐに時間が経ってしまう。
こうしている悠太の存在は凄いと思う。

もちろん、親として自分の子供が可愛いというのもあるけど、
それ以上に人間として、これが理想だと思う。
これは実は僕のたどりついた答えでもある。
つまり人間としてここに全部あると。
全身で抱きしめるだけで人を癒し救うことが出来る。
そんな存在は赤ちゃん以外になかなかいない。
もし、大人でこれができたら。
自分が追求して来たことのテーマでもあるのでつい、考えてしまう。
何回か書いているが、僕は足し算より引き算で考える。
教育はゼロの状態の人間に色んなものを+して行くことで、
成長していくと考えるが、僕は逆だと思っている。
今、悠太達の持っているものが一番大切なもので、
そこから色々プラスされて本来の力を失っていく。

制作の場でも同じだ。
僕達は教えないし、プラスしていこうとはしない。
むしろ、色々入って来てしまっているものを取り払う。
本来の力を邪魔しているものをとっていけば、その人の本当の姿に出会う。

制作において求められるのは、裸になることだ。
そうすると作家たちは見違えるような力を発揮する。
そこから、果てしない世界が見えてくるのだが、
彼らに本当の力を発揮してもらうには、いつも言うように、
スタッフに相応の現場力が必要だ。
これは小手先のテクニックではない。
極端に言うと目線を会わせた瞬間に、座った瞬間に勝負は決まっている。
言葉でどうこうしようと思っても遅い。
だから一瞬の為に僕たちは存在の力を磨いていく。
ある意味で絶えず勝負に備えている。

僕はたくさんの場に入って来たし、自分でもたくさんの場を創って来た。
たくさんの人間に会って来た。
現場での存在力を備えた人はまれだ。
さっきも書いたが足し算なら、いろいろ着飾れば地位とか権威とかで、
あたかも何者かであるように見せかけられるかも知れない。
でも、場ではその人の裸の存在に力がなければ、何も動かない。
場に入った瞬間から、何も持たないその人そのもので勝負しなければならない。

不思議なもので立っているだけで、存在の力の有る無しが分かる。
漫画のように「むむ、できる」とか、そんな世界だ。
だから騙せない誤摩化せない。
自分にはまだまだ他の部分があるんだと言っても無駄で、
そこに立っているその人が、その人の全てだ。

残念ながら、「むむ、できる」、みたいな人とはほとんど会わない。

悠太の実力に遠くおよばないということだ。

本当の僕を知っている人は、佐久間なんかどうしようもないと分かっているけど、
学生や若い人は僕を理想化していることもある。
場において僕が教えられたことは、いつでも全部あげるけど、
その先に行って欲しい。佐久間なんていらないというくらいのところまでは。
「佐久間さんには人間力があるから」と言ってもらったことがある。
これは滅相もない、とんでもないことだ。
当り前だが謙遜ではない。
僕をきっかけとして場から学び、もっと高い人間と出会って欲しい。
本当に人間力のある人に数人だが会った事がある。

そういう人達はただ何もしないでいるだけで、
人に良い影響をあたえる。場も良く出来る。
以前、お世話になっていた場所でマザーテレサと共に仕事をしてきたという、
男性とお会いした。お会いしたと言うとおこがましい。
見ることが出来た。
ああいう方が人間力があると言える存在だ。

もう1人はチベット人のお坊さんだったが、講演を聞かせていただいた。
人間はこんなにやさしくなれるのだと、感動した。

2人とも、キリスト教や仏教という宗教的な背景がある訳で、
宗教を持たない僕達が理想と出来るのかどうかは分からない。
でも、彼らが存在することで与える影響は大きい。
こんな人達には一生かけても足下にも及ばないだろうが、
日々、少しでも努力していくことは必要だ。

未だにこんなところにいる。
10年後にはもう少しましになりたいものだ。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。