2012年11月5日月曜日

自由について

ずいぶん寒くなってきた。
少し早めにエアコンをつけてアトリエをあたためている。

アトリエ・エレマン・プレザンの活動をフェイスブックでも、
発信していくことになりました。
こちらはダウンズタウンプロジェクトとしていますが、
展覧会やイベント等の情報ものせていくことになります。
ボランティアチームの赤嶺さん稲垣君が担当します。
2人のアトリエやダウン症の人達の良さを伝えていきたい、
という気持ちに期待しています。
新しいツールで、新しい視点でこれまでのアトリエや、
これからの情報を発信していってくれるそうです。
アトリエを応援して下さる皆さま、是非ご覧下さい。

日曜日のアトリエでは午前のクラスで、
なつみちゃんの表現がぐんと深くなってきた。
昨日、特におっと思ったのは、まあゆちゃん。
初めからいつもと集中の度合いが違っていたのだけど、
出来上がり間近で、作品に入り込み一体化していく。
色使いや、構成はこれまでいくつかのパターンがあるのだけど、
それが一つになっている。
こうして見ていると、やっぱりくりかえし重ねている行為が、
自己を深めていくということが分かる。
上手くいえないけど、染み込んでいくというか。

ダウン症の人達から、たくさんのことが見えてくるといつも言っているが、
その中でやさしさとか平和とか、
そういう要素は特に何度も触れてきた。
彼らのやさしさは物事に触れる時の手触りの繊細さにあらわれる。
ほとんど毎日、そんな場面を見ているが、
先日もてる君が「佐久間さーん。ドクブリが、ね。ドク、ブリですか」と
僕の後ろから話しかけてくる。
「ん。ドクブリ、あ、ゴキブリいた?」
「あっちに」
少し離れたところでよし子が笑っている。
よし子はずっと見ていたようで、話を聞くと、
てる君がずっと独り言を言っているので見てみると、
彼はずっと陰に隠れているゴキブリを覗いて話しかけていた、という。
「ドクブリなの。ドークーブリですか」と何度も何度も。

そんな訳でアトリエでは今年始めてのゴキブリを発見し、
僕がすぐに退治した訳だけど、
てる君のおおらかさにはみんな感動していた。

以前もアトリエが代々木にあった頃、
ベランダにゴミ袋を出していたらカラスがあさりに来た。
すぐに追い払おうと、立ち上がると、
窓ごしにてる君がカラスと話しだした。
僕達はしばらく見守っていたけど、10分くらいずっと話していた。
にっこり笑いながら「なーに、もってくの、泥棒カラス」。

昨日のクラスでも、描き終わった後で一生懸命、
何度も何度も絵の題名をくりかかえしつぶやいている。
自分で考えたタイトルだけど、忘れてしまうので、
何回も確認している。
「海、山!階段、サッカー!NHK!お家で見たところのNHK!」、と。
「お母さん、今日はこむかえ(おむかえ)こられないから、教えてあげないと」
といって僕の顔をみる。
とてもとてもやさしい目をして考えている。

みんなが帰った後で最後はすぐる君と2人になったのでお話していると、
いつもより考えながら話しているので、何か聞きたいことがあるのかな、
と思っていると、しばらく話してから、
「佐久間君は何か食べるものは、なにが好きですか」と
ゆっくり聞いて来た。
「うーん。何でも好きだよ。」
「じゃあしいたけは好きですか」
「しいたけ、すきだよ」
「今度、学園祭に行くから、佐久間君にしいたけ買ってこようと思って」

そんなすぐる君は昨日、凄いテーマの作品を描いた。
タイトルは「離れた空」。
地球を上から見ていて、横にも前にもいくつかの惑星がある。
ただ単に上というよりは、複雑な角度で描かれていて、
いったいこれを見ている人はどこから、見ているのだろう。
しかも、地球や他の惑星の上に(これも上と言えるか分からないが)青い空がある。
色んな角度から同時に見ているような感じでもあるが、
角度とか、そういう次元を超えてしまっている。
これがシリアスに描かれていたら、また印象が違ってしまうが、
すぐる君お馴染みの可愛くて、ちょっととぼけた、
そして、少し奇妙な感じの作品として描かれている。
これを見ている時、描いている時、いったい彼はどこにいるのだろう。
どこから見ているのだろう。

人に何かをしてあげたいとか、喜ばせたいという気持ちはみんな共通している。
でも、言葉ではなく、行為ですらもなく、
彼らのやさしい気持ちは気配のような感じで、透明感があって、
それに触れた時は切ないような感動がある。

おっと、今日のテーマは自由についてだった。
長くなってしまうので本題は次回にします。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。