2013年3月6日水曜日

散歩

春は太陽の光の感じが違う。
昨日、ゆうすけ君は外の景色を「白っぽい緑、黄緑系」と言っていた。

朝はわりに寒いことが多いけど、柔らかな日差しもあり、良い季節だ。
気持ちも静かになる。

昨日、アトリエの時、ハルコが最近では珍しく
「久しぶりに佐久間さんと一緒に帰りたいなあ」と言っている。
別に本当にそうするつもりではなさそうで、独り言の様な感じで。
それからしばらくして、「むかしとき、佐久間さんと散歩してたね」と言ってから、
色々と思い出すことを話していた。
「ジルー(犬)と歩いてたとき、大っきい犬にほられたね。(ほえられたね)」

終わりの時間頃になると、もうそんなことは忘れたのか別の話題になっていた。

アトリエが終わって、だいちゃんを送り出してから、
まだ追いつけるかな、と思いついてちょっと走ってみると、
すぐにハルコの後ろ姿が見つかった。
「あっ、サクマさんだあ」
「一緒に帰ろっか」

久しぶりにハルコと2人でゆっくり歩いていく。
以前より忙しくなったこと、ハルコ自身が自立したこと、
とか様々な理由で最近はこんな時間もなくなっていた。

夕方の景色の中で、歩きながら、呼吸を確かめながら、
浄化されていくことを感じる。
こんな時が僕にとってもとてもかけがえのない大切なものであったりする。

浄化と書いたけど、ハルコのリズムを共有していると、
存在が純化されていく感覚がある。
街を歩く学生たちの声も遠いところから聴いているようだ。
こころは静けさを増し、気配が消えていく。
透明に透明になっていく。景色の中に溶け込んで、なんにもなくなって、
でも、鮮明に一つ一つの場面が見えている。
美しいなあ、と思う。生きてるって素晴らしいな、と思う。

ハルコが見ている世界の、豊かさ、やさしさ、深さ、広さ。
僕達は時々立ち止まって、呼吸して、確認する。
大いなるものの前でゆっくり、ここにいることを感じる。

空と空気と重力が守ってくれている。
いつの間にか世界に包み込まれている。

ハルコの家の前まで来て、「じゃあ、また明日ね」と駅の方へ歩き出す。
もう見える風景も変わっている。
僕はハルコの目を通して見ている。
そうやってゆっくり街を歩いていた。

さて、今日はアトリエでどんなものが見えてくるのだろう。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。