2013年4月12日金曜日

生き方を創る

東京にいる間はとにかく、毎日ゆうたと遊ぶ。
空を指差したり、木や葉っぱを指差して僕に教えてくる。
ゆうたが見つめる方を見ると、そこには新鮮な風景が広がっている。
特に木を指差して、ゆうたと一緒に見上げると、
大きな大きな存在が目の前に迫ってくる。
一瞬、世界がスローモーションになって、
それから、どこまでも大きな自然に包まれる。

そう言えば、以前、制作が終わった後にみつあき君がゲームをしていて、
ちょっと見せてよと言って、色々教えてもらってビックリした。
今のゲームは本当に進化している。
画面の動きも立体的だし、リアルだし、スピードも凄い。
場面の変化が早く、パッパッと変わる。クローズアップで迫る時の感触も凄い。
この光景はどこかで見た事があるぞ、と感じてすぐに思い出した。
自閉症の人の見方と同化している時の光景と一緒だった。
ゲームの世界は自閉症の人達の内面の見方に近づいている。
それが良い事なのか悪い事なのかは分からない。
多分、その両方なのだろう。

大きな大きな樹木。
ゆうたと見ている景色。
本当の世界は、もっと豊かでもっと大きくて、
もっと深いという事実を思い出させてくれる。

子供といる時間は大切だ。

生きる事はもっともっと可能性に満ちたことだ、ということを、
アトリエの活動の中からも示して行きたい。

今年、予定している夏合宿と来年の展覧会は、そこがテーマとなる。
絵を描くこと、感覚を開いて、調和を見つけること、
そこにどんな意味があるのか、明らかにして行きたい。
大切なのは美しくあること、美しく生きることだと思う。
そして、私達、一人一人が美を、調和を見つけ、創りあげて行くことが出来る。
人と人、人と自然が繋がる。
作品は調和へ向かう運動の痕跡を残したものだ。
だけど、プロセスすべてに実は美や調和がある。
プロセス、調和へ向かう動きこそが最も大切なものだ。
本当の意味では完成や完結はない。
どこまでもプロセスがあるだけだ。
一つの環境を創造して行くこころの動き。
一人一人が繋がって行く平和な作業。
そういったプロセスにスポットを当てて、作品以上に大きな流れを示そうと思う。

夏合宿では、今回、借りられるようになった建物(元集会所)を、
参加する作家たちでつくりかえて行く。
メインは外観と中に絵を描いて行く。
この作業はカメラを回して撮影してく予定だ。
建物が全く違ったものとして命を与えられる瞬間が見えるはずだ。

来年の展示ではこの映像も流して、
更に会場そのものもつくりかえて行くプロセスを見せる。

今はこれ以上のことは言わないが、こうした流れで進めて行きたい。

これまでエコールやプレでやってきたことと同じことだ。

これから三重でダウンズタウンの環境づくりを公開して行きたいと考えている。
カフェもゲストハウスも手作りで、彼らの感性に寄り添ったものとなる。
そこを訪れる人達にとっては癒しとなり、インスピレーションの源となればいい。

良い過程を歩むこと、そこをみんなで共有して行くことで、
創ること、生きること、喜ぶこと、そこに新しい可能性を見いだしたいと思う。

美は芸術家だけのものではない。
創ることも、繋がることも、喜ぶことも、
一人一人が自分自身で、見つけることだ。
それが集まって一つに調和して行く。

私達はもっと平和で豊かに生きることが出来るはずだ。
ダウン症の人たちの感性が示していることとは、
実はそういう普遍的なことだと思っている。

私達は新しい生き方を模索している。
どんな風にそれを見つけ、創造して行けるのか、
このプロセスを多くの人に見ていただきたい。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。